コラム
日本人は転職しないのか?
日本人が転職しないというのは間違いである。
しかし、頻繁にこの疑問をぶつけてくる外国人ビジネスマンたちは一様になんらかのイメージや噂に基づき、日本人は転職しないから人材確保に苦戦していると考えているようだ。
今回は、日本人がどれだけ、どのように転職をしているのかを以下のようにまとめており、日本国外の方に参考にしてほしい。
ポイント
(1)平成30年雇用動向調査結果から読み解く実情
(2)ケース:30歳代前半
(3)採用活動に励む企業への提案
(1)平成30年雇用動向調査結果から読み解く実情
どのくらいのひとが、どうして転職するのかについて理解するために、厚生労働省が発行する平成30年雇用動向調査結果の結果から2つのポイントについて抜粋したい。
・従業員の10人に1人は1年以内に入社した転職者である
平成30年雇用動向調査結果にある常用労働者の移動状況(率)によると転職入職者(入職者のうち、入職前1年間に就業経験がある者)は常用労働者の内10%だった。つまり、常に雇用されている労働者のうち10人中1人がその年に転職活動をして転職してきた者だということだ。決して少なくはないのではないだろうか。
(引用:厚生労働省が発行する平成30年雇用動向調査結果付属統計表1-2)
・転職者の状況と転職した理由では契約期間修了による転職あるいは、給与、労働時間等の労働条件が次いでいる。
平成30年雇用動向調査結果によると、平成 30 年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由として、男性は「その他の理由(出向等を含 む)」29.4%を除くと「定年・契約期間の満了」16.9%が最も高く、次いで「給料等収入が少なかっ た」10.2%となっている。
女性は「その他の理由(出向等を含む)」25.5%を除くと「定年・契約期 間の満了」14.8%が最も高く、次いで「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」13.4%となってい る。 前年の平成29年結果と比べると、上昇幅が最も大きいのは、男性は「職場の人間関係が好ましくなかった」で 0.5 ポイント上昇、女性は「定年・契約期間の満了」で 3.2 ポイント上昇した。
また、 年齢階級別にみると、男女とも「定年・契約期間の満了」が 60~64 歳(男性 59.4%、女性 51.9%)、 65 歳以上(男性 50.3%、女性 29.6%)で高くなっている。
(2)30歳代前半ビジネスマン2名の声
それでは、統計データ以外の生の声として実際の30歳代前半2名の声を、転職した理由しない理由に重きを置き紹介したい。
いずれも大学卒業後10年ほど社会人経験をもった東京在住のビジネスマンだ。志向性、行動力ともに全く違う二人の転職歴と仕事との付き合い方を聞いてみた。
・転職回数2回 Aさん
初めての転職は社会人3年目になる少し前で、先輩には「石の上にも3年だ、もう少し頑張れ」なんて引き止められながらも新しい環境に挑戦したく転職を決意しました。
1社目の会社は有名上場企業を親会社に持ちながらも設立5年目の若い会社でした。新しい会社で色々挑戦できるだろうと期待し新卒で入社したものの、上層部はグループ企業からの40代後半の出向者などで固められ古風なコミュニケーションスタイル、また直属の先輩たちもいまいち仕事にパッションがあるような方ではなく、全く期待したイメージとは違い、当時のやる気やパワーを発揮できる環境ではなかったんです。
初めての転職活動は入社して1年たった頃に開始しました。経験はなかったものの、なんとかこのやる気評価し採用してくれる会社があり、そちらでは4年勤めました。私の場合、キャリアのステージとしてとにかく仕事に集中したかったので、2社目での最初の1年目は朝の6時には家を出て、帰宅は日付が変る頃、そんな仕事生活をしていました。そのおかげで業界での実績や知識もつき充実した20代を過ごせたんです。
2回目の転職は、業界経験をもとに外資系の会社へ転職し、これまでより大きなマーケットへ挑戦しています。転職の理由は待遇でした。2社目ではどうしても昇給のスピードも遅く、自信の評価が正当なものなのかに疑問がありました。3社目では20%の給与アップとより柔軟性をもった労働環境をオファーしていただき、仕事内容だけでなく待遇面でも改善ができました。外資系ということもあり、英語でのコミュニケーションなど私には新しいことも多く大変ですが、面白くも感じています。
今後の転職については未定ですが、今交際している恋人との入籍も数年以内にと考えているので、そういった家族との時間のバランスや職の安定性も気になってくるかもしれません。
・転職回数0回Bさん
転職したいと思うことは何度もありましたが、結局ぜずに今に至ります。理不尽な上司からのパワハラや、激務の時期には真剣に求人サイトへ登録して、良さそうな仕事・会社がないか見ていましたよ。
ただ、その時は改めて今の会社の居心地の良さ(給与や社会的ブランド)だったり、新しい環境へ挑戦する勇気・自信が無かったりして具体的に転職を決めたことはありませんでした。社会人経験も10年になると第二新卒採用のように未経験で雇ってくれる大企業もないですしね。もうここまで同じ会社に勤めていると、同期もどんどんやめていったので、私は既に古株扱いで上司からは昇進の話も持ちかけられたり、重宝され始めた気もします。
今後はわかりませんが、よほど待遇が良くなって自信のある仕事でなければ転職はしないかもしれません。求人サイトは引き続き見ることもありますし、ヘッドハンターとの情報交換も忙しくないときはお受けしています。
(3)採用活動に動く企業への提案
先に紹介したAさんは環境を自ら変えることでキャリアを築いてきたし、Bさんは環境に合わせることで社内に今の地位を得た。いずれもがそれぞれも個々にあったキャリアであることは間違いなく、転職する人もいればしない人もいるのだ。
とはいっても、終身雇用制度は20年も前に崩壊した。今多くの日本人は転職をする。その数や頻度は他国より少ないかもしれないが、いずれも待遇を含めた就業環境の改善を求める者が多いようだ。
このポイントを採用戦略のターゲット設定の考慮に入れてみてはいかがだろうか。